ジャーマンチャネル 15


ジャーマンチャネル最初から




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食事は味はもちろんだが、演出部分の楽しみが更に何らかのスパイスになる。

たとえば、日本の懐石。
雄大な自然に囲まれた数寄屋造りのたたずまい、門の中から苔むした石畳
玄関の敷石で履物を脱ぎ、磨き上げられた木目が光り美しい廊下を歩き、縁から石庭や小池、鹿威しの澄んだ音が
時の静寂を時々思い出したように割る音色
異空間にいざなって精神まで鋭敏に研ぎ澄ます
白の和紙の障子と桟の格子戸

きっちりと和服でりりしい若い仲居さんが戸の横でひざまづくと
襟元の白さが黒髪をアップしたうなじに映えて、一瞬どきっとする
白足袋の縁がきれいな女鹿のようなふくよかな曲線を支えて、廊下に薄っすらと射す陽光と戯れる
開かれた部屋から、そこはかと畳の香が漂い静謐な外気と混じり合う
漆の光沢がやさしいテーブルに着くと、書院風の部屋の造作の一つ一つが興味深い
天然木を利用した床柱、季節を考慮した掛け軸と、さりげない投げ入れに野草の可憐な花
円窓の桟の意匠は川の流れに櫓を漕ぐ小舟
シルエットに浮かぶ影がさざ波のように庭の木立の枝葉からこぼれる
・・・・・ここまでに至るまでに、食事は既に始まっているのだ
料理を口にする事が食の全てではない






このレストランも日本情緒を取り入れながらのOPENキッチン
目の前での調理はシズル感を増幅して、出来立ての料理をシェフのサービスで頂く。
アメリカ人には他のレストランでは得られない演出でとても人気が有る。

ジュディは益子焼の和皿の意匠や、テーブルのちょっとした金具にまで興味深そうに見ていた。
「日本のKYOTOのトラディショナルレストラン、Youtubeで見ました。凄く素敵でした!
あんなに素晴らしいガーデンの中に100年以上の建築物のレストラン、いつか行ってみたいです」
「ああ〜^京都は雰囲気が有る和食レストランいいね・・・いつの日か御案内するよ、そんなチャンスが
訪れるといいけど・・・・・いや・・・・機会は意識して作らなければいけないね・・・」
ニコッと笑ったジュデイの目が頷いていた。

こんなシュチエーションは何度か経験したな・・・・
女性は男が何の気なしに言った会話内容を、数年後に思い出して投げかけたりする。
・・・「あの時・・・言ってたじゃない!約束して連れて行ってくれるって・・・・」
・・えっ?そんな事言ったっけ・・・・・
過去の女性とのやり取りが、ふと頭によぎって小さく苦笑した。

「あら・・・?・・・素敵なレディとの思い出でも・・・?うふふっ・・スマイルに出てますわよ!」
感が良すぎる・・・
図星に慌ててハイネケンを口にした。

うまい具合に、シェフがワゴンを押しながら登場した。
オーダーしたメニューの食材と調味料、調理道具を綺麗に積んでいた。
彼は最初にステーキの焼き方を確認した。
ミディアムレアで二人ともオーダーしていた。
ランチなのでやや軽いステーキだが、ブラックアンガスという品種の牛肉で
エージング2週間のサーロインステーキだ、半身のロブスターテールはニュージーランド
日本の伊勢海老とは異なる南洋伊勢海老だ。

シェフが手際よくソース皿を各自2種づつ並べて説明する、ジンジャーソースとマスタードソース。
加熱して適温になった鉄板にむき海老をラインダンスのように並べて、華麗な手さばきでカットしてゆく。
シェフのナイフは腰に下げたガンベルトのようなホルスターから繰り出される。
海老のカットをよく見ると、背割りしてから尾をカット、さらに身を半分にしている。
素晴らしいスピードだ!
御夫婦が感嘆の声を上げた。
「わぉ!ショーを見ているようね、私にナイフを投げないでね!」
シェフが笑いながら切り返した。
「綺麗な奥様をお持ちの御主人には投げるかもしれません・・・」
「ヘイ、シェフ!、俺は・・・まだ生きていたいんだ・・・お前さんのステーキを喰ってからにしてくれ」
一同、大爆笑!

ベテランのシェフは言葉のショーも繰り出す。
気の利いたジョークはとても好まれ、そのテーブルの空気を一気に一体化して、見ず知らずの客同士を友人のように同化させる。

ちょうど焼きあがったむきエビを各自にそなえられた益子の大皿へ、スパテラをてこのようにしてポンポンと投げ入れた。
ジュディはうれしそうに私の表情を確かめるように微笑み、手にした箸でジンジャーソースの小皿にむきエビをちょっと付けて口へ。
味わっている頬がぷくっとして可愛い。
微笑みと共に何度も無言でうなずいている。

1cm角くらいに細長く事前に切り分けられたズキニースクワッシュ、輪切りにしたオニオンを外周に並べ、マッシュルームの山を角に築いた
鉄板のセンターには、ロブスターの生の殻と透明感の有るむき身を乗せた。
ワゴンの和食器の鉢からホイップドバターをスパテラですくってロブスターに乗せた。
ナイフが腰から繰り出してカット、スパテラと大ぶりのミートフォークで和えた。
ペッパーミルを片手でクルクル回しながらふりかけ、キッコーマンの赤いキャップのおなじみの容器から、ロブスターに少し注いだ。
とたんに広がる、香ばしいバターと醤油の香り。


ほっこりと身が弾けるように調理されたロブスターを、加熱され赤くなった殻を各自の皿にデコレートして、その中に綺麗に盛り付けた。
これは、ソースを付けずにそのまま口へ。
プリプリとした食感とじゎっと口中に満ち足りる海老の芳醇な肉感、凝縮した繊維を感じつつ弾けながら海が溶ける、それもまろやかな旨みを放ちながら。



つづく








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