Bikers Hi

英語圏に料理ファンが居るので英語使わせてもらってます

ジャーマンチャネル 


パラオに行くにはいったんGUAMに降り立ちトランジットが必用だった。

ナオミはいつも黒い服を着ている。
ショートボブの彼女にはタイトなドレスが良く似合うが、ストーンウォッシュのジーンズに
黒いベースボールキャップ、薄い革のライダーズジャケットで足早に空港通路を歩くと
FBIの捜査官かとイメージが重なる。

HarleyフォーティーエイトでLAのコンドミニアムに来た時も同じ装い。
その時はレイバンのサングラスにジェットヘルで、ちょっとHollywood映画の登場シーンを
見るようで、日中の強い陽光に颯爽と爆音を奏でながら現れ、私の前で停車してにっこりほほ笑んだ歯が白く素敵だった。
美女にHarleyはよく似合う。

このバイクはあたかも、アメリカ人女性の美を引き立てる魔力を生まれ持って備えているのかもしれない。

ナオミの名前は日本人の直美、尚美、奈緒美など、同じ発音なので最初に会った時から妙に親しみが持てた。
目がいたずらっ子のように少し下から見上げるような、ちょっとしたしぐさが可愛い。
表情が豊かでくるくると黒い瞳がリスのように動く。


スポーティーなボーイッシュな感じの中に、女性のふくよかな暖かさがあって、時として視線が深く私の胸の内を
読み取るようにじっと制止すると、ハスキーなささやき声で尋ねた。
「今、ステディなお相手居るの・・・?」
「・・・・えっ・・・いきなりのパーソナルクエスチョンだね・・・・」
「一緒に仕事する相手には聞くわ・・・・私なりの安全策と・・・・冒険よ・・・」

どう意味を理解したらいいのか、一瞬戸惑う。
誘いでもあり・・・彼女独自のトラップ・・・・?

まあ、どちらでもいいが・・・・
あいまいに微笑んで、氷が溶けて薄くなったアイスラテを意味無くすすった。




パラオには、ビーチが無い。
意外と思うかもしれないが、砂の堆積形成がなされないのだろう。
ホテルによっては重機でホワイトサンドを運び入れ、人工のビーチをセールスポイントに挙げているところも有る。

部屋をとったホテルはビーチ沿いにバンガローと、ココナッツツリー、ブーゲンビリアの群生が素晴らしい森にコテージが有る。
バンガローは、どちらかというとハネムーンカップル向け、コテージは実用的で家族連れや長期滞在者に好まれる。
内装はベージュを基調にした壁面に、バンブーや編み込んだリーフが幾何学模様になったタペストリーが飾られ、ミクロネシア
古来からの様式のようで部屋の照明をランプシェードにすると、とても落ち着く。
直接的な照明の光より、間接照明が織りなす空気感と暖色の透明度、目から入る光線の絶妙な慣れ、間接照明の暗さを逆に効果として取り入れ
海からの空気と植物の香が混じり合って、部屋に居ること自体が快適だ。


いつも夕暮れ時に、微かにギターの音色が聞こえる。
散歩の時に会った、オーストラリアのリタイヤした御老人の音楽家だろう。
テラスで海を見ながら持参した楽器で奏でているようだ。
静かに爪弾くバラード調の調べが、ものうげでいて時として謳い、水平線にゆっくりと消えゆく黄色からダークな赤にグラデーション変化する
太陽に贈るレクイエムにも聞こえる。

ギターの奏者はサンタクロースのような顎髭を蓄え日に焼けた穏やかで優しいお顔に、目が物静かな学者のような風貌だ。
赤いイルカのイラストがプリントされたアロハに、ステテコ風のサイズが大き目なペラペラなズボンを履いている。
いつもゴーギャンの絵画から飛び出してきたような、黒髪が長く軽くウェーブがかかったタヒチアンと白人のハーフと思われる
美しい娘とよく見かける。
時々テラスでコーヒーを飲んでいる姿に、視線が合うと軽く頷くような会釈をする。
見ていると仲のいい父娘が、コーヒータイムを楽しまれているようで、とてもハッピーな空気が二人より漂う気がする。


部屋で撮影の機材チェックをしながら、イメージデッサンして過去の画像をPC内に呼び込み確認していた。
どれも当たり前のように光量がこれでもかと豊富なモデル撮影ばかりだ。
今回はチャンスが有ったら、土砂降りの中のブーゲンビリアの群生の中でナオミを立たせて撮影してみたいとふと思った。
濡れた髪と薄く肌に張り付いたドレス、背景にグリーンの熱帯性の植物群、真紅のブーゲンビリアの花房がアクセント。
天を少し見上げた顎に雨のしずく、のど元から滑る水滴、目は軽く閉じられて急なスコールに自然の豊穣を願うビーナスのイメージ。

・・・・・・ドアを軽くノックする音・・・

開けると、ナオミがどこで見つけたのか、でかいストローハットをかぶって笑っていた。
さっきまでイメージしていたばかりだったので、いきなりで少しとまどった。
「どうしたの・・・?・・何か・・まずかったかな?」
「いやいや・・・ナオミの事をイメージしていて・・・本人がいきなり目の前だから・・・」
「あら・・・?・・それはそれは・・どんなナスティイメージ?」
白い歯を唇の端に浮かべて、ちょっといたずらを見つけたような意地悪な微笑で目が笑いながら睨んだ。
「はははっ〜〜〜、仕事だよ仕事・・・ちょっといいイメージが浮かんでね!」
「えっ〜〜〜〜〜何のイメージ?・・・お・・し・・え・・・て!」
まだ目がいたずらっ子を見つけ出そうと追っている。
「あはは〜〜〜、内緒内緒、いずれ現場で教えるさ・・・・・・ただ・・・・ねぇ・・・」

少し沈黙

「何々?・・・その言葉の先は・・・・・・?」
「自分の力では…どうにもならない部分がねぇ・・問題・・・チャンスと・・運が必要」
ナオミはわざとストローハットの広いつばを両手でスヌーピーの耳のように両頬に閉じている。
彼女なりに会話の答えを考えているつもりなのか、しぐさが可愛い。
「まっ・・・・いいわっ・・・いずれ解るね」
「そう!その通り」

広げた機材を興味深そうに見ている。
1眼レフの水中ハウジングは昔に比べ進化しているが水深60mくらいの気圧・水圧変化に耐えられる。
水中ライトのスティに2灯のストロボ仕様なので、どこかカニみたいな様子にも見える。
パラオの水中は透明度も高く、光量も10m以内なら条件にもよるが豊富だ。
今回の水中撮影はナオミの背景にバラクーダの大軍が大渦のような絵とナポレオンを広角で絡めてみたい。
全て自然相手なので、多くの条件がマッチしないと思う絵は撮れない。
他にも撮影イメージはあるが、浅瀬やラグーン内の岩礁帯で抑えられそうなので、スコールに立つ女神イメージは
心の中でチャンスを熟成して待とうと思った。


ナオミと知り合ったのは、偶然が重なったある1日だった。

LAのオレンジカウンティにマニアなバイクメカニックが居て取材に赴いた。
郊外のハイウェイ高架の下にジャンクヤードのような倉庫街が有りその一角の古工場がホセの店だった。
彼はメキシコ系アメリカ人で大男だ。
いつもカーキ色のつなぎに赤い色調の中にどくろが舌を出しているバンダナを海賊巻に頭にかぶっている。
50年輩だそうだが若く見えるのは、柔道のせいかもしれない。
親日家で何度も日本を行き来している大食漢だ。
子供の頃見たカトゥーンの影響で空手に興味を持ち、当時の自宅から子供でも自転車で通える道場が有ったらしい。
早速入門したのはいいのだが、そこは空手道場ではなく柔道の稽古場。
仕方がないのでそのまま通っていたら、持ち前の体格と勘の良さでたちまち上達して面白さに目覚め
気が付いたら黒帯になっていたそうだ。

ホセとはたちまち意気投合した。
土産に持参した日本酒に狂喜して、今までエンジンをばらしていたOILで黒くなった手をもどかしそうに洗うと
奥の事務所からマグカップを2つ持ってきて栓を開けた、ニヤニヤと1口飲むと無精ひげの唇をぺろりと舐めた。
私の目をじっと見て、力強く親指を立てて頷いた。
気に入ったようだ。
マグカップで2人で「乾杯!」・・・つぐたびに変な調子で「オットット・・・どうもどうも!」などと言う。
日本の居酒屋あたりで酔客に教わったそうだ、彼なら誰ともすぐ仲良くなるだろう。

工房は外見では雑然としているかと思ったが、ものすごく綺麗に整理された工具が鈍く光り輝き、清掃された床に
整然とあらゆる種類の大型バイクが時を待つように輝き並んでいる。
4台ほどの作業台にリフトUPされたマシンがフェンダーやメッキ部にプロテクトシートを掛けられ、エンジン部や電装パーツが
むき出しで修理されていた。
他に2名の若いメカニックが黙々と作業に没頭していた。
彼を慕って師事して働いている有能な弟子達だそうだ、2人とも寡黙だが笑顔が素敵でなんでもホセの遠い親戚の人間らしい。
彼なら面倒見がいいから、この工房での作業は楽しそうだ。

私は自然な感じの工房内をイメージし、撮影し始めた。
中は明るく光量が有るので高機能のNIKONのハイパフォーマンスコンデジ1機で、作業の気を壊さないように多くの角度からショットを重ねた。
自然光と工房内のライティングが高質なメッキ部分の輝きを更に美しく光らせる、漆の光沢を放つ黒いタンク、ラメを散らした
GOLDのキャンディ塗装、エンジンの輝きの陰と陽、目には高価なおもちゃ箱の中身が広がり、その魅力に翻弄されつつ、あたかも鼓動感を持つ生命体に
メカニックたちが取りついてなだめすかしているかのように見える。
夢中でシャッターを切った。

遠くから爆音が聞こえ近づいてくる。

工房内に居る私からは開放されたシャッターの外は逆光で、ファインダーからの視線移動では
目が光量に慣れない。太陽光のシルエットに黒い陰で大型バイクが入庫してきた。
ようやく視界が慣れた頃、サイドスタンドをかけ颯爽と降りた人影を確認した。
メットを脱ぐと、少し華奢な男性かと思ったが若い女性だったので驚いた。
ナオミだった。



つづく   











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