ジャーマンチャネル 11


ジャーマンチャネル最初から



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ホセから預けていたレンタカーのKEYを受け取り一旦モーテルに戻る事にした。
ナオミは電話でお客と事務的な話をして忙しそうだった。
仕事の邪魔をしないように、そっと近づき軽く手をあげた。
ナオミは受話器を肩にはさみお客との会話はそのまま、私の手首を軽く握って微笑みながらウインクした。
口元が私に向かって無言でゆっくりリップシンク・・・
「See you ! I will get you」と読めた気がした。
ナオミはニヤッとお茶目に笑いながら胸元で手を振った。
その手に手のひらを合わせてみた、少しだけ指を絡めてくれた、うれしかった。

LAに向かって走り、そのままsamの会社へ向かった。
一応アポイントメントを入れておいた。
電話がつながり用件を告げると、事前に私の事は知らされていたようでとても丁重なビジネス英語で
明瞭な女性の声で応答してくれた。
こういったところにもsamの会社の堅実な運営が感じられ、これから訪問するこちらとしてもどこか
身が引き締まった。
今日は契約なので、軽いサマージャケットを黒いポロシャツの上に羽織っていた。

ナビが導いたのは、芝と緑に囲まれた公園のような一角だった。
大きな近代的なビルが社屋と思っていたので、道を間違ってしまったかと錯覚した。
どこかリゾート風の洒落たテラスのある平屋だが、大きなガラス面やサンシェードのある庇が特徴が有った。
広いウッドテラスには白いテーブルやベンチが配置され、そこにも巨大な樽のようなプランターに様々なプランツが飾られ
ブーゲンビリアやハイビスカスの鮮やかな花も添えられて緑の中に一際引き立っていた。

社員と思われるカップルが、かっちりしたスーツを着てラップトップPCを前に、顧客とみられる初老の夫婦ににこやかに対応している。
LAの日中の日差しも、木々の枝葉やベージュのキャンバス地のパラソルが、心地よい日陰を作っていた。
室内よりこのテラスの屋外の方が気持ち良さげだ。

テラス横のアンティーク煉瓦を埋め込んだと思われる歩道を少し歩き中に入った。
薄いベージュ色主体のホールになっていてセンターのガラスのテーブルの上には、前衛作家が活けたような
カーラーとフォックスフェースの大きなオブジェ状の活花があった。
白と緑の茎の曲線と黄色の織りなす空間エントランス、素敵な演出だった。

どこからともなく、タイトな黒いスーツを着たブルネットの髪をおかっぱのようなカットにした若い女性が満面の笑みで
私の名を確認して現れた。
「samから伺ってますわ、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
ヒールの微かな靴音が床の大理石と思われる通路に響く、渡り廊下のような通路に陽光が建材のスリットを抜けて外の緑と相まって
このエントランスも美しい。
その先は大きなホテルのロビーのような、天井が高い空間になっており、豪華な家具があちこちに配置されていた。
やや高くなったコーナーにはグランドピアノまで設置してあった。
ちょっとしたJAZZコンサートをプライベートで出来そうな空間だ。

いくつもある応接セット、そのどれもが同じ物が無い。
色々な国の高級家具と思われるが違和感無く、シックにまとまっている。
ここがリアルエステートの会社本社かと、思わず不思議な気になる。
まるで全てが良く考えられた作りで洗練された雰囲気と空間を演出していた。
外のグリーンや彩光の変化まで計算されて、居心地よく寛げるコンセプトの見事さに感心していた。

ブルネットの女性が、ソファのひとつに案内してくれた。
「samはすぐにこちらに来ますよ、何かドリンクをお持ちしましょうか?」
「ありがとう、さっき車の中でコーヒーをがぶ飲みしてるので・・・あなたの笑顔だけで満足です・・」
彼女はくすりと笑って「あら、私のスマイルにそんな効果が?うれしいですわっ・・・では少しお待ちを・・・」
チャーミングな社員さん。後ろ姿に見とれてしまう。

「おお〜〜シェフロードキング、よく来たな!」
奥のドアからsamがニコニコと現れ、HUGしてきた。
シェイクハンドよりうれしかった、家族のように迎えてくれた気取りの無い対応に感激してしまう。
「Samさん・・・すばらしい社屋ですね、びっくりしました」

今日のSamはシックな光沢のある濃紺に白いピンストライプのスーツ、山吹色のネクタイに黒いドット柄、日に焼けた笑顔と白い髭に
とてもマッチしていて洗練されたおしゃれだ。
タイピンがミッキーマウスとミニーがダンスをしているGOLD製品。
タイのドットも良く見るとミッキーの黒いシルエットが、いくつもおりなすものになっていた。
遊び心があってセンスの良さを感じる。

「ああ、ここもある意味、我が家だからな・・・俺や社員が家族でお客がゲスト・・・そんなコンセプトで作ったんだ」
「近代的な高層ビルをイメージしていたんです・・・」
「あはは〜〜そんなものはどこでもある景色さ、広大な土地に自然をあしらい低層の環境に配慮した社屋の方が、ある意味
贅沢なんだ。ここは顧客にも評判がいいぞ。あのテラス見ただろ、時々仕事に関係なく訪ねてくれる顧客もいてな、リラックスして
呑んだりすることも有って、また新しい関係に発展したりもするんだよ。お互いにビジネスのメリットを見出せるんだな〜〜」
「素晴らしいですね、ここにいるとどこかリゾートの施設のようで・・・」
Samはうれしそうにうなずきながら、社長室に案内して歩き出した。

社員の居る空間はちょっとした宇宙指令センターのような明るい空間になっていた。
大きなモニターと大小のデスクトップが並んでいて、ここはリゾートで寛ぐようなファッションをした
男女が熱心にキーボードとモニターをチェックしていた。
パーティションは無く、広いスペースに各自大きなWOODデスクを個性的に使っていた。
無機質になりそうなオフィスも天然木と鉢植えの巨大プランツ、外周の壁面にはPOPアートと思われる明るい色調の絵が
美術館のように配置されている。
絵画の間にはサービスステーションのような小カウンターとバーチェアが備えられ、スターバックスで見るような
エスプレッソマシンが設置してあった。

トレーニングジムの帰りのようなウェアの女性2人が大きなマグカップ片手に話し込んでいた。
Samを見かけると二人ともシンクロするように胸の前で小さく手を振った。
「可愛い娘達さ・・・あれでも優秀な営業レディさっ・・・・ノルマは無いが目標以上の成果を上げれば、うちは自由さ
奥にトレーニングジムが有って好きに使えるようにしている。勤務時間に遊んでいるように見えるが、切り替えも早いぞ
びしっとビジネススーツでおしゃれして大手企業のおやじどもを差し置いて有利な契約を取ってくる凄腕さ・・」
驚いた・・・こんな会社様式も有るのかとその発想の斬新さと、雰囲気にのまれた。

大きなリゾートホテルのレストランエントランスみたいな、木製の手彫りのレリーフがあしらわれたドアを開けると
そこがsamの部屋だった。小さ目の一戸建てが入りそうな広さだ。
センターに中庭が有り苔むした巨岩にシダのような観葉植物が絡み、岩の割れ目から清水が小さな滝を形成していた。
天井部分は天窓から太陽光が降り注いでいる。
滝は渓流のように巨岩を走り、厚いアクリル水槽に下部が形成されていて中を錦鯉と思われる魚が
万華鏡のパーツのようにカラフルに泳ぎ回っていた。

黒いイタリア製と思われるソファとテーブル、間接照明には壁面の戦国絵巻みたいな絵画が豪華に浮かんでいた。
外には大きなスライドガラスをブラインドが覆い、上部はバンブーの質感の有るシェ−ドになっていた。
円形のマホガニーのようなディスクにモニターが3台設置され、近代的なリクライニングと背もたれが斬新な黒いチェアが
社長の椅子だった。

素晴らしい部屋に感心して眺めていると、どこからかノックする音・・・
samが答えると、今まで壁と思われた一面が開いてブルネットの社員がトレイに飲み物を持ってきた。
目を見張っていると「samからお客様へとこれを・・・・・」そう言いながらテーブルにコースターを置いてオールドファッショングラスを置いた。
彼女は私に軽く一礼するようににっこりして、samに伝えた。
「いつでも用意は出来ていますので、お帰りの時に下のエントランスで」
「ああ、ご苦労様、一応書類は持参しておいてくれ・・・では15分後くらいで・・・」
samはそういうと彼のグラスを受け取った。

「さあっ!これも旨いぞ・・・」
samは、またマリブの自宅のように私に顎で促して酒をすすめた。
「オールドグランダッドだっ・・・オフィスではあまり飲まんのだが、お前さんとなら呑みたくてな・・一杯だけだが・・」
綺麗な透明な氷にトリプルのロックでなみなみと入っていた。
お互いに目の高さまでグラスを上げ口に含んだ。
目と目が合い、目じりが下がる、旨い。

いつの間に・・・
Samは、ブルネットの社員に私が来る前からこの酒のオーダーまで指示していたようだ。
「お忙しいのにお邪魔して、旨い酒まで・・ありがとうございます」
「気にするなよ、ここは我が家の延長さ・・・後でジュディが物件に案内するから、気に入ったらサインしてくれ。
俺はあいにく、州のお偉方の御機嫌取りでちょっとした会合に出向かなきゃならんのでな」
細やかなsamの気使いがありがたかった。
これだけ素晴らしい会社のオーナー社長が、昨日知り合ったばかりの私に親切に応対してくれている。
「はい、ありがとうございます。何から何までお手配に感謝します」
「まあ、おまえさんが契約するのは間違いないとして・・・あはは〜〜、引っ越しして落ち着いたらナオミを差し向けるから
パーティだぞ!あんたの料理が楽しみなんだ、寝る場所は心配するなエマも待っているのだからな」
「はい、わかりました。落ち着き次第またマリブの御自宅へお邪魔させてください」
Samはグラスのバーボンを舐めるように呑み、ゆっくりと頷いた。
スーツ姿でこの会社の主、成功した男の威厳のある姿。
しかし何の気取りも無く、友人のように接してくれる。
ありがたかった。

グラスを飲みほし、がっちりと握手した。
samはまた自然にHUGしてくる、かるく背中をぽんぽんと叩くとにっこり離れた。

背後にはブルネットのジュディが立っていた。
「お車の御用意しておりますので物件まで御案内します」
事務的だが、柔らかく言う彼女の言葉に従いsamの部屋を後にした。
振り向くとsamは仕事上の話か、電話を耳に何かメモしていた、私の視線を感じて片手で合図を送ってくれた。
忙しい中、貴重な時間を割いてくれていたようだ。

ジュディに案内され、エレベーターで地下のパーキングへ向かった。
通路には靴底が感じる毛足の絨毯が敷かれている。
ゲスト用の地下エントランスだった。
車寄せにはピカピカの新車、レンジローバーが私を待っていた。
ドライバーが居るのかと思ったらジュディが先に立って後部ドアを開けた。
私は助手席が好きなので、ジュディに断わってそちらに座った。
運転席には彼女が慣れた感じで颯爽と座った。

ジュディはジャケットを脱ぎ白いブラウス、サングラスをかけハンドルを操ると地下のエリアから滑り出した。
一連の動作がスポーティで美貌と相まって凄くかっこいい。
「15分ほどの距離ですがオフィスに使うならいい物件と思います」
淡々と話す感じは、さすがに不動産会社社員の雰囲気だ。
「このお仕事は長くやられているの?」
少し興味が有って聞いてみた。
「まだまだニューフェースですね、2年になりますが毎日が勉強です。でもとても楽しいので・・」
「samさんは面倒見がいいから、素敵な会社だし・・・」
「はい、私もシニアマネージャークラスで大きいお仕事が出来るように頑張ります」
ジュディは意欲的に話してくれた。
「そうそう・・・会社にジムが有るんだってね」
「はい、samが経営する会員制のフィットネスが隣接してるんです」
「へ〜〜samさんは商売上手だね・・」

車はビバリーセンターを抜け1ブロック裏の住宅街に進んだ。


つづく





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