ジャーマンチャネル 8


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翌朝は早く目覚めた、2階建てのモーテルのパテオが見える1階に部屋を取っていた。
玄関を出るとすぐ駐車場で客室が横並びの建物なのだ。
ロードキングは部屋のカーテンを開けると見える位置に停めて有る。
ここならセキュリティーの心配はない。
LAは有数の犯罪都市でもあるのだ。

パテオには小さ目のプールが有り、パームツリーと庭木でその空間だけさえぎられていた。
日中は家族連れの小学生くらいの子供たちが、キャーキャーと楽しそうに遊ぶ声がこの部屋まで聞こえて来る。
宿泊客のほとんどはプールでくつろぐことは無いが、私はパラソルの下でデッキチェアにだらだらと寝そべり、
好きな小説を読むのが好きだ。
外国に来るといつも江戸時代の侍ものや、戦国時代の武将の小説を読んでしまう。
この異国の環境の中で、そんな日本オリジナルの物語の世界に埋没するのは、なんとも言えない快感がある。





備え付けの冷蔵庫に買い置きのクワァーズが有ったので、日本から持ってきた本を小脇に2缶持ってプールに来た。
まだ朝早いので誰も居ない。
デッキチェアをリクライニングにして、パラソルで日陰をアレンジした。
朝食はまだだったが、クワーズは軽いティストのビールなのでお構いなしだ。
この時間帯からビール?・・・・そう思う人を否定はしないが、これも私の個人人生のスタイルにすぎない。
ドラッグに手を出しているわけでもなく、軽いアルコールだがモーニングコーヒーと同じようなものだ。
とかく、飲酒責任に厳しい日本と違い、個人の責任オウンリスクが尊重される国ではその自由度を満喫したい。

1本目のクワーズを開けて、小説に没頭していた。
想いは江戸の町に居る自分が居る。

感覚的に映画セットの当時の街並みを俯瞰で見ているような気で読んでいる。
多くの町人の通行人の中に、侍が歩く。
侍は歩く速度と姿勢が町人とは異なる。
2本差しているので腰の据わりと足の運びが筋練された侍は違う。
視線や呼吸も整って頭の位置がゆっくりと平行移動していくようだ。
袴の腰板が有るのでおのずと背筋が伸びる。
これは手練れの遣い手の姿勢をイメージした感じ。
不意の襲撃にも、この侍は余裕をもって体捌きをかけるだろう・・・・
そんな事を小説の行間から読んでしまう。
むしろ読むというより、勝手に想像して喜んでいるのだが。
この異国の空間、それも早朝のプールサイドで軽いビールを飲みながら膨らませるのが
何ともおもしろい。

この手練れの侍は敵と狙われている。
敵となる所業を侍はおかしていた。
父母を殺され、家に火までかけられた少女が成長し厳しい修行に耐え、女流剣士となって
かたきを探し、長い旅路の果てにこの侍と遭遇する・・・そんなストーリーだ。
断髪し、きりりとした美丈夫な女剣士、一見若侍に見えるがそこは成熟した女性。
そこはかと色香が出てしまう。
ただ、本人は親の敵を討つ為に、女性的な優しさやたおやかさをひた隠しに剣の道を生き
一途に思い極め、多くの葛藤を抱えながら侍の足跡をたどり旅をしてきたのだ。
3年の月日を費やして、やっと敵の後ろ姿が垣間見られたが、援助してくれた親戚筋からも
女だてらに敵撃ちの所業を決して良くは思っていない。
女流剣士は世の情けの果かなさと、己の命運に心中は悩み、敵討ちの空しさも感じ始めていた。
その矢先についに敵を目にとらえたのだ。

小説の先を読み進めようとしたが・・・・
ページを伏せてビールを飲んだ。
ふと揺らぐプールの水面をぼんやりと見て気が付いた。
私の中で、女流剣士の面影がナオミと重なっていたのだ。
小説の中の舞台は江戸期、侍のナオミは敵討ちで一途に敵を狙っている。
イメージの重なりは不思議だ。
異なる世界が自分の心の中でどんどん創作して形成してゆく。
ナオミの存在が、いつの間にか私の心の中を大きく侵食しているようだ。
もう小説にしおりをして、読むことは今日は止めた。

部屋に戻り、依頼された仕事の報告と資料、画像ファイルを大量に日本へ送付した。
東京の商業関連の広告代理店との関係が深い。
たまたまその会社のオーナーが親族という事も有り、仕事は忙しかったが依頼は切れなかった。
ほぼフリーで飛び回っている方が自由で気楽なので好きにさせてもらっている。
午前中は仕事に没頭した、PCでの作業がほとんどだし作業ははかどった。
午後からはバイクをホセに返し、レンターカーと機材を戻さなければならない。
とんぼがえりにSamの会社へコンドミニアムの契約内容を確認し、OKそうなら手続きまで済ませたい。

早めにホセのファクトリーに向かう事にした。
グローブをはめイグニッションをONにしロードキングを眠りから起こした。
昨日のナオミとの楽しい時間を共に過ごしたバイク、どことなく借り物だが自分の愛車のような気もしてくる。
ホセのファクトリーをナオミをフォローして乗り出した時は、慣れるまでしっくりこない感じも有ったが、
さすがに今日は自分の体の大きな一部のような、このマシンが臓器を持った筋肉化して体に同化していた。
車ではこの感覚が得られないと私は思う。
2輪ならではのこの感覚、息の合う現代の馬といっても過言ではないだろう。
乗り手の癖を見抜き、駄々を捏ねないところがまたマッチングする要素。
寡黙だが、乗り手の技量でいかようにも変化しそうなパワーを秘めている。
明るい陽光に今日も照らし出された、ウィルシャーブルバードを多くの車が流れる。
その中をバイクで流す私は、このマシンに愛情に似た微かな感情を既に芽生えさせていた。

こいつと共にどこまでも遠く走ってみたいと思った。
このマシンはきっと人と人を繋ぐ、その新たな出会いに更なる乗り手の人生が大きくドアを開けるのだ。
昨日はそのもっともたる効果ではなかっただろうか?
たった1日で人の人生は変化する。
たった1日が新しい世界を目の前に提示してくれる。
無数のドアが膨大に存在し、今私はそのドアの前に立っているのだ。
ドアノブの前までこのマシンが案内してくれた。
そのドアの向こうは誰も解らない。
どのドアをチョイスしOPENするのか、それすらわからない。
ただ、私は・・・・
何か自分の欲するものが先に有りそうなドアを、ランダムに開け続けているのかもしれない。
しかし、そのドアから先に足を踏み出さないまま、ただ佇みその時点で目に映る虚構の世界に惑わされているのかもしれない。
可能なら深く足を踏み入れ、先の世界を貪るようにこの手で掴んで行かなければ何も得られないのかもしれない。
全てが未知で、不安で、暗黒で、軽い恐れも心のどこかに生じてしまう。

ステート10から5へ、今日も順調に車が流れている。
数マイル先のインターあたりをLAPDのヘリが低空で旋回している。
接近して現場が見えると事故のようだ、路肩の壁面に側面を擦ったマイクロバスが停車して
既にハイウェイパトロールとアンビランスカーが来ていて、見物渋滞が発生しそうな車線を規制していた。
日本では考えられないが広大な面積を持つLAエリアではヘリの活用が多い。
恐ろしい低空で滑空する姿は何回も目撃している。



夜中に自宅の芝生でゴルフの練習をしていた友人は、パトロール中のヘリに上空でホバリンぐされ
強烈なサーチライトを照射されたと話していた。
ゴルフクラブをヘリの乗員に見えるように差し出し、手を振ると現状を確認して去って行ったらしい。
赤外線カメラや最新の装備で、夜でもかなりな視野を誇っているようだ。

事故現場周辺は低速で規制されたので、現場は良く見えた。
首にコルセットされた老人が担架に乗せられたところだったが、重篤ではないようだ。
また上空に今度はTVクルーと思われるヘリも来ていた。
派手なカーチェイスシーンなど、こんなヘリ部隊がよく撮影していた。
大事件ではないと確認したようで、少しホバリングしていたかと思うといつの間にかいなくなった。

渋滞域を抜けると快適に飛ばし、ホセのファクトリーに向かった。



つづく







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