Bikers Hi

英語圏に料理ファンが居るので英語使わせてもらってます

ジャーマンチャネル 6

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初めて訪れたこの素晴らしいロケーションの家。
とてもフレンドリーで古くからの知り合いのように接してくれるエマ夫婦。
ふくよかなワインの酔いと、軽妙で楽しい会話と笑い。
ゆったりと家庭的な雰囲気の中、とても解放された自分が居た。

不思議だ・・・・
アナハイムのホセの店でナオミと会い、マルホランドへいざなわれエマに会った。
そして思いがけなく料理までして、samに会い素晴らしいワインと微笑みに満ちただんらん。
ここ数時間で何か私の人生が凝縮されてどんどん違うベクトルに進んでいくような?
タイムラインの進行が早くそれでいて不思議な安堵感が有り、懐かしい家族の記憶が心の奥から
掘り出され、温かい陽光に照らし出される。
この感覚は新鮮だった。
ナオミの口元の軽い微笑が、まるで魔法のように私を翻弄しつつ楽しませている。

カベルネソービニオンの芳香の中にワイングラス越しに見える何か、もし未来を見るすべが有るなら今この瞬間に
私は見る事が出来るのかもしれない。
幻影であってもこの時間のたおやかな記憶は永遠に残るだろう。

広大な太平洋の海はいつの間にかダークブルーからグレーに変化し、陽光がオレンジのベールを添えレッドからイエローの彩光を放ちながら
静かに銀色のシャドーをまとわりつかせる。

海はいつも変化する、変化する事が普遍なのだ。
立ち止まってはいない、刻々とその表情を一瞬たりとも制止させない。
時間が駆ける・・・
その時間を海面から飲み込んで誰も知らない深海に引きずり込んで、未知の巨大な海獣に喰わせるのだ。

記憶というメモリーもちっぽけなプランクトンに過ぎない。
また、朝が来て陽光が充ちれば再生された生命となって新たにうごめきはじめる。
時間が人生と呼べるなら、再生のプランクトンは記憶だ。
夜の時間に世界中の多くの記憶が、マリンスノーになって沈降して、深海の光の届かない深みにたまってゆく。
歯の無い不気味な怪物が、大口を開けて奪うように咀嚼しているのかもしれない。

海は怖い存在・・・














「もう日が沈む、テラスで呑まないか?」
2本目のワインもいつの間にか空になり、samはまだ飲み足りないようだ。
レディースは、ファッションの話題か何か楽しそうに二人で話している。
エマのナオミを見る瞳は本当の母親のように慈愛に満ちた優しい光を帯びている。
ちょうど夕日の反射がテラスのガラス部分に屈折してエマの虹彩を輝かせているのかもしれない。

samはカルバドスとマールのボトルをカウンターバーの棚から持ってきた。
リビングから大きな一枚ガラスをスライドさせテラスに出た。
白いデッキチェアが丸い木のテーブルにいくつか置かれていたが、2台大き目の天然木を加工したデッキチェアにいざなった。
ニスが塗り重ねられて木目が綺麗に浮き出ている。
座って足を投げ出し、手すりの感触を楽しんでいるとsamが言った。
「どうだい・・・座り心地は、ここでいつもエマと夕日を眺めるんだ、色々な事を語り今日の太陽にkissを送るのさっ・・・」
「素晴らしい時間をここで過ごすのですね」
「俺のお気に入りの作品なんだよ、このチェア・・・手垢と汗がしみ込んでいるだろう」
驚いた、やや無骨ながら個性的な特注のデッキチェアとばかり思っていた。
コロラドの山荘でひまに任せて日曜大工さっ!いくつか失敗したけど、これは2年目の作品さ」
「わぉ!素晴らしい出来ですね!素人離れしてますよ」
「山荘の近所、ファニチャー会社の社長と仲良くなって、工房にいりびたりさ、これでもPROのレクチャーを少しな・・」
samはブランデーグラスを舐めながら嬉しそうに話す。
「ものつくりは楽しいな、不動産業はレントか売買が多いから俺みたいな仕事人間は創作する事が妙にはまるんだな」

水平線に大型の貨物船のシルエット、沈みかけた太陽が今日の最後の陽光を投げかけている。
トワイライトの時間は短い。
海風がそよそよと爽やかで、上質のアロハシャツのような洒落たアウターを着たsamの襟を微かに揺らす。
横顔の輪郭が威厳があり白い髭がsamの容貌に柔らかくマッチしている。
ハンサムで紳士な大人の男。
自分もこうなってみたいと思った。

男二人、ただ黙って暮れゆく海を見つめブランデーグラスを時々口にする。
こういう時は、会話は要らない。
この時間に身を任す心地よさ。
長い人生のほんの瞬間に過ぎないかもしれないが、海と爽風とブランデー、何も言うことは無い。

静かに静かに、ゆっくりと寡黙に。
何も考えていない、何も気づかわない、何も求めない。
ただ、そこに有る海を眺めるだけ。

samは黙って飲んでいる。
時々、ふと私を見ると、グラスが空になる前に注いでくれる。
ボトルを傾けて、にやりと笑う。
軽く顎をしゃくって目でもっと飲めという。
私は酒に強いほうで、ワインからカルバドス、マールと美酒のリレーでも今日は妙に頭が冴えて
酔うという感覚が無かった。
ただ・・・うれしい事に人に酔っていたというべきかもしれない。
偶然に思いがけない場所で知り合った、美しくチャーミングな魅力溢れるナオミ。
ナオミはまるで、ここマリブまで天空を駆けて案内してくれたビーナスだ。
エマやsamに引き合わせてくれた。

人の生活範囲はたかが知れている。
一つのサークルの中を行き来している。
その範囲内の人に会い、様々なしがらみの中でそれが生きてゆく自分の人生範囲と勘違いする。
しかし、あるきっかけや偶然のイベントが重なって、サークル外に出る事がある。
その場合、自分と新たに関わった人もどこかその人のサークル外を旅していた旅人なのだ。
旅人と旅人が、めぐり合いサークル同士が交わり侵食して同化部分をお互いに発見して、新たな喜びを見出す。
交わった部分は・・・・・
”縁”と呼ばれる。
サークルの円と円がクロスする部分が”縁”なのだ。

「ここにエマと住むようになって・・・本当に海をよく見るようになった。
まあ、そのためにここを買ったようなものだが、・・・夕日に向かってただ見つめる時間が多くなったよ」
Samは目を細めながらブランデーグラスを傾けながら言った。
「・・・この時間が一番落ち着くんだ、たまに好きなJAZZを聞きながらエマと飲むんだ。いつもジョンコルトレーンのバラードだけど
あの曲が最高にマッチするんだ、わざと上の部屋で再生してBGMにすると音量がささやくようでいいんだな〜〜」
「わぉ!それはわかりますよ〜〜〜サンセットに贈るバラード」
「おおっ!今聞かずともイメージできるのかい。そりゃーーいいや。ところでいつまでこちらで仕事なんだい?」
samは体の向きを替え私の方に身を乗り出して尋ねた。
「まだ綿密な予定は立てていないのですが、今のところ依頼された仕事部分はほとんど終わったので、これからはLAを拠点にして
自分の仕事が出来ればと思っていますよ、可能なら日本と米国をフィフティフィフティが理想ですね」
「おお!そりゃ〜〜いいな・・また旨い飯を作ってくれるかい?今度はBGM付きでまた呑めそうだな・・あはは〜〜」
「またおじゃましていいのですか?」
「おお、大歓迎だよ!あんたとは馬が合う。これでも人を見る目は有る方でね・・・」
うれしかった、まだ知り合って数時間だが、この方はすんなりと私のコアにするりと入ってくる、それも自然に。
「まあ、俺の商売からの一つの提案だが・・・」
「なんでしょうか・・・?」ちょっとビジネス的な会話になりそうで少し身を正した。
「Lacienegaのレストランローから1本入ったブロックに古い物件だがコンドミニアムを買ったんだ、
管理人に老夫婦が居ていい物件なんだが、ファーニッシュのシングルに入っていた男がトラブルを起こしてね・・・」
samはグラスを少し傾けて唇を舐めた。
「聞いた話だが、そいつは金持ちのドラ息子で勘当されていて、それでも母親が金を出してそこに住まわせていたんだ
これがとんでもない奴で、ジャンキーで部屋を破壊して暴れて警察騒ぎさ・・・。
損害は母親が金を出してくれたので今は綺麗にリフォームしたのだが、管理人が怖がってな〜〜、年寄な夫婦もんだから・・・
あんたみたいな外人だけど優しい感じの男が少し住んでくれると助かるんだが・・・」
「えっ・・私みたいな男でいいんですか?」
「あんたさえよければだが・・・・こっちからお願いするので条件は相場の半分でいいさっ、いちいちホテルかモーテル暮らしては
落ち着かないだろ?」
突然の提案に驚いたが、願っても無い好条件だ。
ロケーションもビバリーヒルズ内だがエリア的に都合がいい。

後日、samの会社で手続きしてもらうことにした。
がっちりと握手してsamが言った。
「俺もうれしいよ、会社の物件があんたの仕事に少しでも役立って、それと・・・呑みだちとお抱えシェフを手に入れたようなもんだ」
豪快に笑った。

「あらあら・・何がそんなにおかしいの?BOYSの悪巧みは何かしら?」
いつの間にかテラスに来たナオミがsamのチェアの手すりにお尻を乗せて言った。
「ナオミ、彼の仕事ベースを提案したんだ、訳ありの物件が空いていてね・・・」
「あら?どのへん・・・?」
興味深くナオミが私に聞いた。
「レストランローの裏のブロックですよね?是非拝見したいです!」
Samは大きく頷いている。
「へっ〜〜^それはいいわね!ロケーションもいいし、レストラン豊富だし、エリア的に安全だし」
「ああ、おかげさまで助かりますよ!これで長期に仕事ができるベースが出来そうなので・・」
「あら・・そうなの?では・・・私の本業でもお役に立てるわねそのうち・・・」
ナオミの目が少し輝いて、じっと私を見つめてそう言った。
どこか心の奥を覗かれたような気がして、瞬間戸惑ってしまった。







つづく












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OSとIEの相性の問題みたい? すんませんな〜〜。



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