ジャーマンチャネル 3

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ナオミは1960年代のイギリスのバイカーファッションをまとっていた。
黒い光沢のある革パンツをエンジニアブーツにインして、上はWの黒革ライダースジャケット
胸にエースカフェのワッペン、背中に白くROCKERSとLOGO。
アイボリーのジェットヘルメットに黒縁のゴーグル。
カフェレーサーのスタイルがすごく似合っている。
ROCKERS全盛の時代に今の彼女が居たら、たちまち人気者になっていただろう。

見とれていた私にナオミは少し怪訝そうに言った。
「どうしたの?・・・女は洋服で気分を変えるのよ・・・・私は相棒でだけどね」
「えっ・・・?相棒って・・・俺の事?」

ナオミは私の顔をまじまじと見て、思わず吹き出していた、しばらくおかしそうに笑っている。

「私の・・・・相棒はね!・・・」

そう言うと、ファクトリーに並ぶバイクから奥に歩き、少し離れた場所からあまり見かけない黒いバイクを押し出してきた。
カフェカウルが付いていたので気が付かなかった。

「トライアンフ、スラクストンカフェスタイル」
颯爽と跨ってそう言った。

お決まりのバーエンドミラーではなくノーマル位置に変更している、セパレートハンドルだがホセのカスタムであろう、前傾姿勢が深くなく楽そうだ。
リアのフェンダーが短い、ウインカー位置もカウルが有るので小さ目になっている。
タンデム部分のカバーは外して小さ目の黒いKriegaのバックを括り付けている。





「BOY'Sより、この子は私の言うことをよく聞いてくれてとてもSEXYよっ・・・・
エンジンも軽快で、いい感じのブリーズね!」

KEY ON でファクトリー内に心地よいエンジンサウンド、排気の香りを嗅ぐと心にも火が入る。

私は、乗ってきたレンタカーの荷物から着慣れた革のシングルライダースを取り出した。
下はジーンズより機能性がいいので薄いカウ革のライダースパンツを履き、愛用のエンジニアブーツだ。
ロードキングに跨りミラー調整、重い車体だがきっとアメリカンロードを忠実にトレースしてくれるだろう。

ホセは空になったマグカップをテーブル代わりの古いドラム缶TOPに置いた。
「Hei! Rider's ・・・Drive sefety!........ I will go buck to work」
そういうと奥の事務所に向かいながら、背中で手を振った。

レンタカーはホセが預かってくれる、高価な撮影機材もここなら安心だ。
ジャケット内には小さ目のハイパフォーマンスコンデジ一つ忍ばせた。

ナオミはゆっくり通りへ出ると「Follow me!」と一言。
スラクストンと一体となりバンクして曲がって行きステート5に乗る。
私はロードキングで追った。
安定して走り易い、重量級バイクも米国のFREEWAYならまさにKING、エンジンの鼓動が進軍の太鼓に聞こえ、風に乗り後方に消える。
ハンドル幅が有るのでどっしりとした運転styleは威風堂々、とても心地よくクルーズ出来る。

ナオミは時々振り返ってお茶目に手を振る。
私がコンデジ片手撮りしているのをミラーで確認していたのだ。
ナオミの革のパンツが形のいいヒップラインを強調して、スラクストンのシート上で微妙に左右に動く、
軽くスラロームしてみせるのだ、60マイルは出ているが軽快にラインを作り出している。
やや逆光だが、いくつかショットを重ねた、運転中はさすがに集中できない。
走行中のバイクを動画で撮影するのはそれなりの方法があるが、スチールになると画角などに問題が有る。
1眼でもそのホールドと専用のリモコンシャッターで数台装備するステーでもバイクにセットすれば
面白い絵が撮れるだろう。

ステート5から101へ、車線も多いので軽快に車が流れる、我々2人のバイクも車にさえぎられる事も無くFREEWAY走行が快適だ。
それにしても、ナオミはどこへ連れて行く気だろうか?
ホセの用事も有る事だから、そう遠くには行かないはずだ。
今日は快晴でとても気分がいい、目的地は聞いていないがこのままいつまでもクルーズしていたいと思った。

ナオミのウインカーに従い、フォローしていく。
結構距離を稼いでいる。
いつの間にかFREEWAYを降り切って、丘陵地帯の道に入る。

やがてナオミは路肩に停車して、後ろに停まった私を振り返った。
ゴーグルを上げて、にっこり笑った、日差しに白い歯が覗きルージュの赤が引き立つ。
現代に降り立った、60年代のカフェレーサーガールの艶やかな色香。
たちまち私はタイムトリップしているかのような錯覚を覚え太陽光が眩しかった。

「Welcome to snake!」

ナオミが一言そういいながら、ゴーグルを掛けつつ顎で路肩のロードサインを指した。

Mullholand Hwy 標識にはそう書かれてあった。

丘陵地帯を東西に走り縫うような舗装路。
別荘風の家屋がフラットな広大な土地に並び、木々が覆い隠しているがそれも幹線道路に近い部分だ。
UPしてゆくと建物も無くなり、ほとんど直線が無い部分も増えてくる。
山肌をうねりくねり、まさにもの凄い長さの巨大なスネーク!
LAのバイカーが敬意と愛情を籠めてそう呼ぶのも、現地を見れば理解できるだろう。

ナオミは路面に張り付くように綺麗なライン取りで軽快にカーブをトレースしてゆく。
ヘヤピンやかなりきついカーブにはロードガードが有るが、ちょっとした崖の向こうは急斜面になっていたりする。
途中、木々が枝を大きく囲うように道路上のひさしになって影の部分も有る。
シャドウから日の光が反射する路面へ、サングラスが役に立つ。

ナオミはこの ”スネーク”の為にバイクをチョイスしてそれに見合ったドレスを身にまとってみせたようだ。
彼女のウイットが新鮮でとても魅力的だ。
目の前を黒く若い雌のパンサーが駆けている。
私はそれを追うハンターのような気分になり、バンクしないキングをなだめすかし、でかいエンジンパワーを緩急つけて引き出した。
軽快なスラクストンにツーリングファミリーのロードキングが必死でチェイスしてゆく。

私は夢中でナオミが描く路面をトレースしていたが、しばらくすると慣れもあり周りの景色を楽しむ余裕も生まれた。
この道は、車好きにも快適ロードのようで路肩サイドの開けたパートには高価なスポーツカーが何台も停まっている。
通り過ぎるバイクをキャンピングチェアを持ち出し、でっかいコールマンクーラーで冷やしたビール片手に眺めている連中もいる。
視線が合い合図すると、手でサインを送ってくれたりする。

すり鉢状にカーブがバンクしたタイトなコーナーでは、ビデオカメラや望遠装備の多くのカメラマンが走行シーンを捉えようと
構えている。
バイカーはここぞとかっこよく走り抜けてゆく!
後で動画で観て知ったのだが、このコーナーは事故も多く、気を付けなければならない。
カメラマンの多くはここの動画撮影を売れば金になるので喰っていけるようだ。
かっこいい被写体、中には事故シーンなどには困らない。
待っているだけで、向こうから飛び込んで来てくれるのはバイカーのヤナ場のようで最高だろう。

LAには降雨はほぼ無いので路面はいつも乾燥、怖いのは砂だ。
山の肌色の土が太陽光を白く吸収して、どことなく埃っぽく見える部分も有る。

ナオミがスローダウンしてポンピングブレーキ!
減速を掛けて前方の先を確認すると、目の前でバイカーがスリップ転倒して、細かい砂が煙幕のようにその部分だけ舞っていた。

ゆっくり停止してみると、ロードバイクの方2名を巻き込んで背後から追突していた。
倒れた赤いDUCATIをロードサイドで見物していた人や、休息していたバイカーが起こし安全な開けた路肩に運んでいた。
自転車の2名は膝から血が出ていた。一人は腰を押さえ立っていたが痛そうだ、DUCATIの運転者はジャケットの左サイドが少し裂けていたが
大丈夫そうだ、まだヘルメットを被ったまま呆然としている。
3名とも大きな怪我はなさそうだが、倒れたロードバイクの細いタイヤは2台ともぐんにゃりと曲り、DUCATIのクランクケースは削れ割れ、OILがまだ滴っていた。
広いエリアに駐車していたキャンピングカーから簡易マットなど持ち出し、木陰に敷いてけが人を寝かせている、迅速にみんな協力して応急処置をしていた。
見事な連携!動きに慣れが感じられる。
多くの修羅場を見てきたのだろう。

ナオミは顔見知りと思われるやや年配女性を木陰のギャラリーから見つけて話していた。
大柄な二の腕にTATTOOが派手だが日に焼けた彫りの深い顔がインディアンの女性みたいで
どこか威厳が有り、黒い髪を三つ編みにしていた。このタイトなコーナーの常連バイカーさんのようだ。
茶色の革のベストにターコイズを縫い込んだデザイン、Harleyの磨き上げられたエンジンが光る。
黒いタンクのスプリンガーにもたれて座り、見事なハンドクラフトのレリーフがあしらわれた濃いベージュのサイドバックエージングしていて物凄く素敵だ。
並んだ華奢に見えるナオミと親しげに話している様子はとても様になる。
事故の手助けは多くの人がテキパキこなしていたので、私は画角を変えて何枚もナオミと女性の様子をカメラに収めた。

私が撮影している姿を見つけて、この女性が怪訝そうにしていたのを見てナオミは少し顎で呼ぶように首を傾けた。
私は二人に近づきTATTOOに見とれながら自己紹介した。
「Hi,nice to meet you! コンニチハ・・・」茶色の澄んだ目がどこか母のように優しく微笑んだ。
彼女の名はエマ、ナオミの紹介で私が日本から来たことを知るとTATTOOに視線を送っていた私に、左右の腕を目の前に差し出した。
よく見るとそれは見事な錦鯉の彫り物だった。
右にはダーク系の緋鯉が水流に泳ぎ、桜の花びらが舞っていた。
左は黒い陰影のある鯉が滝を登るような図。
左右の腕をあわせると、どこか夫婦鯉に見える。
エマは嬉しそうにゆっくりと腕を動かし鯉に話しかけ歌うような囁き、「Wake up my lovers〜〜〜♪」
褐色の皮膚に閉じ込められひっそりと住む鯉の生命感が溢れ泳ぎ出しそうに感じる。
「エマ、素晴らしいTATTOO!それ日本の彫師でしょ?」
彼女は大正解を得た回答者を見つけた司会者のように、満面の笑みで初対面の私に抱き付いた。








つづく









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